最強のチームとは


「我々の間にチームプレイなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレイから生じるチームワークだけだ。」
(荒巻大輔)

アニメ『攻殻機動隊』で出てくる名台詞の一つだ。この台詞は、主人公がある事件の捜査中「スタンドプレーを許してくれ」と上司の荒巻に申し出たのに対して、荒巻から出た台詞だ。一言で言い換えると、「やってみろ!」といった意味だ。

攻殻機動隊ファンからは、荒巻は理想の上司との呼び声が高い。しかし私は、この発言が出た要因は、荒巻だけにあるのではなく、チーム全体がこの発言を言わせる土壌を有していたことにあると思っている。

自分がなぜこんなことを言い出したかというと、今自分が所属しているチームが、この言葉を生み出す土壌を備えた、チームだと感じているからだ。

後に、チームのことで困ったことがあっても、立ち返れるように、今回は、最強のチームとは何か、そして最強のチームはどうやって生まれるのかについて、自分の考えを残しておく。

1. 最強のチームとは

最強のチームとは、先ほどの台詞が生まれるための土壌があるチームだと思っている。

では、先ほどの台詞の意味は何だろうか。そのためには、以下の点を整理する必要がある。
  1. チームプレイとチームワークの違い
  2. チームプレイはなぜ都合の良い言い訳なのか 
  3. 「スタンドプレイから生じるチームワーク」 とは

1.1. チームプレイとチームワークの違い

チームプレイとは、各メンバーが自身に課せられた(期待された)役割を認識し、その役割に沿って他のメンバーと協調して行動をすることだ。補足すると、チームプレイは、行動を指す言葉だ。メンバーが行動を開始する前に、チームの目的遂行のために最適な、各メンバーの行動が、ある程度規定されており、メンバーはそれ通りに行動することが求められる。

チームワークとは、チームが存在する状況で、チームの目標に向かって効率的に任務を遂行するために、他のメンバーとうまく連携することだ。つまり、チームワークとは、特定の行動を指す言葉ではなく、うまく連携する、というだけの言葉だ。連携するための手段には様々あり、その中の一つに、チームプレイがある。つまり、チームワークという言葉は、チームプレイを含む。逆に言えば、チームプレイがなくてもチームワークがある場合がある。

これらに対し、スタンドプレイとは、 自己の判断に従って、行動をすることだ。スタンドプレイも、チームプレイと同じく、行動を指す言葉であり、チームプレイの対義語である。

一般的に、スタンドプレイという言葉は、ネガティブな意味合いで使われる。Wikipediaにも、チームの勝利よりも個人が自身の成績を優先したり目立つことを目的にしたプレイ、と書かれている。しかし、これは誤りだと思う。実際に辞書には、"チームの勝利より"という言葉は書かれていない。この言葉は、チームの目標や個人の成績などとは別次元の言葉なのだ。

スタンドプレイが、チームプレイと逆になっているのは、以下の点だけだと考えている。
  • チームプレイ:メンバーの行動があらかじめある程度規定されている。
  • スタンドプレイ:あらかじめ規定された行動ではない
そのため、スタンドプレイには、チームの目標・理念を考えた上での、自己判断に基づく行動も含まれる。よって、荒巻の言う、『スタンドプレイから生じるチームワーク』も存在するのだ。

1.2. チームプレイはなぜ都合の良い言い訳なのか

荒巻の名言で、チームプレイを『言い訳』だとした理由は何か?

その答えは、自分の仕事に対する責任意識に関係する。

チームプレイでは、自身に課せられた役割さえ全うすれば、チームの目的が達成されなくても、責任問題にならない、という意識が働きやすい。チームプレイだけで物事を進める場合は、プレイする前に、あらかじめ、リーダーが目的遂行のための最適な計画を立案し、各メンバーの行動や目標を設定する。そして、各メンバーが、自分に与えられたタスクさえこなせば、チームの目標が達成される。しかし、物事は単純ではない。リーダーの設定した計画が完全ではない場合は多く、また任務遂行中に状況が変わるのは常である。そのため、与えられたタスクだけこなしても、チームが目標を達成できないケースがほとんどだ。

チームが目標を達成できなかった時、『自分は、自分の仕事だけします』『自分は、自分に課せられたタスクをこなしたので、責任ありません』というのは、都合の良い言い訳なのだ。

逆に、スタンドプレイから生じるチームワークを求められる場合、チームが目標を達成しなかった場合は、適切に判断・行動できなかったのは、全メンバーである。そして全メンバーに責任が問われる。そのため、チームプレイで行動するよりも、はるかに厳しいことになる。

 1.3. 「スタンドプレイから生じるチームワーク」とは

スタンドプレイから生じるチームワークとは、各メンバーが、以下の点を考慮して、次の行動を判断・実行することだろうと思う。
  1. チームの目標達成を最重要事項とする
  2. 自身の立ち位置を理解する
  3. 他のメンバーの状況を把握する
一点目がないと、スタンドプレイはただの暴走になる。

二点目の「立ち位置」とは、チームや他のメンバーからの期待である。入社10年目の社員と1年目の社員では、期待される行動は異なる。自分は組織の中でどのポジションにいて、どう行動することが、組織が円滑に動く上で必要なのか、を正しく把握しておく必要がある。ただし、立ち位置と責務・タスクは異なる点に注意する必要がある。

三点目は、チームワークに必須な項目である。各メンバーが他のメンバーの状況を把握し、それに応じて自身の行動をフレキシブルに切り替えることで、チームがチームとしての力を十分に発揮しつつ、前進する。

このような特徴を有する『スタンドプレイ型チーム』は、環境の変化に強く、不測の事態にも適応しやすい。集団は、状況の変化の認識、判断、行動への反映の点で、どうしても個よりも時間がかかり、集団ならではの欠陥である。集団ならではの欠陥を防ぎつつ、チームという集団の力を最大限発揮出来るチームは、まさに最強のチームと言える。

通常の会社では、スタンドプレイ型チームを作るのは、難しいはずだ。なぜなら、各メンバーの考えることが増えるためだ。上の者は、下の者が正しく自己判断出来ているのか、不安になってしょうがない。その不信感から、どうしても細かい役割・責務・タスクを与えてしまう。その結果、チームプレイ型チームになってしまう。

これに対し、荒巻の上の台詞は、荒巻がチームの各メンバーのスタンドプレイを絶対的に信用していることを表現している。そのため、この台詞が生まれる土壌があるということは、メンバーが互いに信頼し合い、安心してスタンドプレイを実行できる、完成されたスタンドプレイ型チームの存在を意味し、すなわち、最強のチームのあると言えるのだ。


2. 最強のチームになるためには 

では、最強のチームを作るためには何が必要か。自分は以下のことが必要だと考えている。
  1. チームにおける自分の立ち位置の理解
  2. 他のメンバーへの理解と信頼
  3. 多様性

2.1. チームにおける自分の立ち位置の理解

チームが様々な変化に対して柔軟に物事を進めていくためには、メンバーがチームにおける自分の立ち位置を理解し、周りから期待されていることを理解しておく必要がある。

スタンドプレイ型チームでは、メンバーが互いの状況を考慮してフレキシブルに行動することが必須であるため、他のメンバーがどう行動するだろうか、ということを想像する必要が出てくる。その際には、各メンバーの立ち位置が、その想像の大きな助けになる。そのため、立ち位置を踏まえた行動は、円滑なチームワークに不可欠なのである。

2.2. 他のメンバーへの理解と信頼

2.1.にも書いたように、他のメンバーどう行動するかを予想して、スタンドプレイをするべきである。そのためには、他のメンバーがどのような人物なのかを、しっかり把握しておく必要がある。

そして、「彼/彼女なら、この仕事をこの完成度でこなすだろう」と予測し、それを踏まえて自分も行動するのである。ここには一定の信頼感がある。ここでの"信頼"は、単に良い仕事をしてくれる、ということではない。互いに理解し合い、相手が予想・期待通りのことをするのを信じることである。

このような意味での信頼を得るには、時間がかかる。なぜなら、信頼関係を構築するためには、メンバー間の深い理解が必要であり、そのためには、互いの仕事ぶりを知っている必要があるためだ。そのため、スタンドプレイ型チームは、一朝一夕では出来ない。

しかし、他のメンバーをより早く理解し、信頼出来るようになるためのコツが存在する。それは、メンバーを観察することだ。そして、他のメンバーがどんな人かを、一言で言えるようにしておくことだ。レッテルを貼るのとは違う。あくまでチームワークの枠内で、どう貢献し、どこに危なっかしい点があり、自分とどう連携して行けそうなのか、などを、本質的に一言で言えるようになることである。これが出来ていれば、その時点ですでに信頼関係があると思われる。

2.3. 多様性 

チームが誕生した時点で、自動的に各メンバーに期待される行動も出現する。なぜなら、チームが誕生する前には、目標を達成できそうなメンバーが人選されるためである。"この人はこういう経験があるから、このプロジェクトに適しているだろう"と考えられて、各メンバーがチームに組み込まれる。そのため、各メンバーには、何からの期待があるはずである。

このとき、強いチームを作るためには、多様性が必要で、能力やバックグラウンド、考え方や立場の違う人間が混在しているべきだ。なぜなら、多くのチームで存在する抽象的なチーム目標に対して、守備範囲を広くする必要があるためだ。

単に、バックグラウンドが多様なだけでなく、行動的か熟考型か、未来志向か現実志向か、15年目社員か1年目社員か、など様々な要素で多様なメンバーをそろえるべきだ。それぞれが、補完的に振る舞うことで、個々のスタンドプレイを暴走に変えない抑止力になる。例えば、時には勢いが必要な場合があり、そこで行動的な人間が突っ走る。熟考型が行動的メンバーの行動の行く先を熟考し、その先の一手を用意しておく。

ここで重要になるのも、メンバーが互いにどのような特性を持っているのかを理解していることだ。自分は周りのメンバーに比べて熟考型だと感じるなら、何を考え、行動するべきなのか(どうスタンドプレイするか)を考えておかないといけない。

3.最後に

ここでは、最強のチームとはスタンドプレイ型チームのこととし、それに必要な3つの要素について書いた。他にも必要な要素はある。例えば、各メンバーの自主性などが挙げられる。ただし、ここで書いた3要素が、今の日本の組織におけるチームプレイ型チームをスタンドプレイ型チームに変えるためのキーになる要素だと思う。

世の中には、完全なスタンドプレイ型チームは存在しない。チームでプロジェクトが始まると、大まかにでも、役割が決められるはずだ。どこまで役割が決められるかは、業種にもよるので、スタンドプレイ型チームにするのが、一概に正しいこととは言えないケースもある。しかし、人を10人集めて、10人分以上の成果を上げようと考えたときには、スタンドプレイ型チームが必要となる場合が多いだろう。

自分がチームをまとめる立場になる時には、この考え方を頭の片隅に置いておきたいと思う。

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