今、私はある特許を執筆しているのだが、 慣れてないため、なかなか手が進まない時もある。
それで、周りの人に相談すると、
「特許と論文は同じようなものだ」
という人と、
「論文と特許は全然違う」
という人がいる。
どちらが正しいんだろうか?
同じだと言う人の意見は、「どちらも以下の内容を含むストーリーを持つから」というものである。
- 背景
- 一般的な課題
- 現状の解決方法
- それでは不十分な点
- 自分が提案する方法
しかし、自分としては、「全く違う」と思っている。その理由は、特許と論文は、それぞれの存在意義が大きく異なっているからだ。私はこの違いが非常に重要だと考えており、この違いによって、文章中で気を付けるべき点も大きく違うと思っている。
論文は、アピールするために存在する
論文を書く研究者は、世の中の問題を、少しでも解決したい、という一心でアイデアを練り、形にし、どれほど有効なのかを示し、それを文章にして紹介するのだ。まっとうな研究者であれば、自分のアイデアを愛し自信を持っているため、論文を書く際には、いかに自分のアイデアが素晴らしいのかを、アピールすることに注力する。
論文執筆では、読む人に素晴らしいと思ってもらえるようにすることが至上命題である。素晴らしいと思ってもらうための一要素として、課題解決に対するそのアイデアの効果を示すことが必要だ。そのため、論文には評価や検証がほぼ不可欠なのだ。
特許は、権利を押さえるために存在する
それに対して特許は、他人が自分のアイデアを勝手に使用して金儲けするのを防ぐために存在する事務書類である。そのため、どこまでが自分の権利なのかを明確に線引きする事が重要である。
特許執筆では、権利化する範囲が一番重要だと思う。より広い範囲を権利に出来るような特許や、ある課題に対して最良の(この方法しかないと思える)方法が書かれた特許が良い。 特許では、他社の読む人に、ぐぬぬ、と思わせるものを書くのが至上命題である。論文のように、素晴らしい、と思わせる必要はない。この特許がなければ…、と思わせるのが重要なのだ。
どちらの方がモチベーションが上がるか
論文と特許では、書く目的が違うので、書きたいかどうかの問題ではないが、自分は特許の方がモチベーションが上がる気がする。たしかに、論文執筆は自分のアイデアを愛せそうである。論文は評価が必要なので、特許よりも作業量は多いが、自分のアイデアに自信があるなら、むしろ喜んで評価をしたいはずである(理想論的な話だが)。しかし、特許は実利に関わるし、実際にアイデアが広く使われる可能性が論文より高い。また、特許を書くと、その過程の中で権利化する範囲を明確にしなければいけないため、自分のアイデアがより具体的になっていくのだ。この過程が、自分のアイデアが形になっていく気がして、楽しい。
アイデアを愛したいという人は、アカデミックな人なのかもしれない。自分は、企業で事業所や研究所でアイデアを形にしたい、と考えているので、特許の方が書きたいと思うのかもしれない。
論文と特許の執筆は、どちらも意義のあることには違いが、それぞれは大きく違うと思う。そしてそのどちらをより書きたいか、によって、自分に合ったキャリアパスも少し違うのかもしれない。
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